No.17 随想 若い研究者への助成について

昭和56年(1981年)3月31日
熊田 誠
選考委員・京都大学工学部教授

 自然科学における新しい分野の発展は少壮研究者の柔軟な発想とひたむきな研究への努力に負う所がきわめて大である。それらはしばしば経験不足とか荒削りといった欠点を補って十分に余りがあろう。特に実験を基盤とする化学のような分野では、若い頭脳と体力、加えて身をもって覚えた技術をもつ研究者を結集した緊密なチームワークにより始めて激しい国際競争に伍し、かつこれに打勝ちうるものと思う。
 こんにち、自然科学のあらゆる分野で国際集会が定期的に開催され、参加者は斬新な研究成果の発表と討論、それに会場外での会話を通じて学術誌や成書では得難い貴重な情報や示唆を掴みとるとともに、大きな刺激を与えられる。従って実験室の現場で日夜奮闘する少壮科学者のできるだけ多くが度々それに参加して最新の知識を吸収すると同時に高い国際感覚を身につけることは極めて望ましく、ひいては明日の日本の自然科学の発展にとって大きな原動力となるに違いない。世界は小さくなったとはいえ、欧米の科学者に比べるとわが国の科学者、とくに若い人達は、国際研究集会への参加をはじめとする国際交流についてはずっと不利な立場にある。
 これにつけ、当財団をはじめとした民間の科学振興財団が少壮研究者の国際集会への参加に格別の配慮を施しておられることはまことに有難いことである。因に、文部省国際研究集会研究員派遣制度に最近申請した人と採択された人の数を筆者の所属する学部を例にとってみれば次の通りで(括弧内は採択数)、

 教 授助教授講 師助 手
昭和55年度18  (8)8  (2)0(0)4(1)
最近5年間の総計66(38)29(12)4(0)11(1)

 

上の数字を当財団の昭和52年度の短期派遣採択数(第1回事業報告書による)

 教 授助教授助 手その他
 1715103

 

に比較してみると、上述のことが歴然としている。
 以上、海外短期派遣のみにしぼったが、長期派遣、研究援助その他で、科学振興財団が少壮研究者を鼓舞激励し、かれらに大きな希望を与えられていることは、わが国における自然科学の発展に寄与する所少なくなく、まことに有難いことである。

記念誌「山田科学振興財団の5年」(昭和57年(1982年)2月1日発刊)より