No.14 随想 使用期間を一年に限定せぬ研究援助があっても良くはないか
昭和56年(1981年)3月30日
平田 義正
前評議員・名城大学薬学部教授
研究費の援助をする民間財団も相当に増えたが、大部分は一年に限定する場合が多い。しかし民間からの援助としては多少の融通がきくのが良いのではないかという気がする。
大きな研究と取組む場合には大きな設備を必要とすることもある。しかし我々のような天然物の研究に限定される問題かも知れないが、大きなプロジェクトを遂行するためには、4~5年にわたっての材料採集が必要となることも多い。それも材料収集費だけでも年間100~150万円の経費を必要とする。例えば、イワスナギンチャクの毒パリトキシンの研究の場合、毎年約500㎏(多い時は年間1,000㎏)のイワスナギンチャクを採集、ドライアイスで凍結、飛行機で送らなければならなかった。採集のための漁師の労賃、レンタカーの費用、送料等科研費で払うのが厄介なものが多く苦労した。しかし新らしい問題を切り開いてゆくためには、材料の収集、抽出、分離法などの出発点から始めなければならない。それを4~5年続けるとなると大変なことである。また毎年異なる資金源の援助に頼って研究を進めて行くのも随分おかしなものである。
そこで民間財団の自由さの特徴を生かすためには、例えば1,000万円を一年でなくて4~5年に亘って計画的に使っても良いとなると大きなプロジェクトを組む場合には非常に有効だと思う。すなわち一定の人員で一年間に処理出来る材料の量には限度がある。仮令5倍の費用をかけて材料を集めても、研究者の数、設備(建物を含め)が増加しない限り一年間に5倍の材料の処理は出来ない。無理をすると収量が悪くなって大きい無駄が生ずる。適当な量を毎年続けて始めて研究も順調に進むものだろう。
記念誌「山田科学振興財団の5年」(昭和57年(1982年)2月1日発刊)より