No.16 随想 「点試汎行」型研究助成について

昭和56年(1981年)4月3日
三井 利夫
選考委員・大阪大学基礎工学部教授

 山田輝郎氏が山田財団の設立に際して書かれたものによると、私立の財団と国の科学研究助成は「点試汎行」の形となるのが望ましい。すなわち、財団の助成には、規模は小さくとも未知の分野に大胆に賭ける、いわば「点試」の役割を期待し、有望とわかれば大規模な「汎行」的助成は国に期待したいとされている。こういった財団の方針は特に若い研究者に評判がよいようであるが、実施面では多分少しは改善の余地もあるかと思われる。何か書くようにとのおすすめなので、思うことを書かせていただくこととする。
 まず、上記「点試汎行」が理想的に行われた場合に、統計的にどのような現象が見られるかを考える。或る研究に対しtなる年に財団の研究助成が行われ、t+τなる年に国の助成が行われたとする。多くの研究に対し、2つの助成の相関を調べると、「点試汎行」がうまく行われた場合、多分τが数年、例えば3年といったところに相関のピークが現われるであろう。しかし、筆者の狭い範囲での知見では実際のピークはτがかなり0に近いところに在るように感じられる。これは財団の援助が国の助成同様によい研究に対して行われていることを示すが、「点試汎行」という観点からは助成対象の選択に多少は改善の余地があることを意味するものであろう。その改善策として思いつくことを以下に述べ、御検討をお願いすることとする。
1. 国から給与を得ていない人達、つまり大学院生や研究生は国の科研費助成を申請できないように聞いている。実際にはこの層からよい研究が多く出ており、有能な人については研究費の面で先   輩の先生から或る程度独立させることが独自の研究を伸ばすことにつながるように思われる。無給の若手にかなり多額の研究助成を行う助成の種目をもうけることは如何であろうか。
2. 研究分野を変えることへの助成。或る分野Aでかなりの業績をあげた人が、業績の無い他の分野Bへ転向することの援助を積極的に行えば、日本の研究もよりダイナミックになるかと思われる。この様な場合、その研究者はBの分野の玄人から見ると多少は妙な考えを持っているように見えるのが常かと思われる。しかし素人が正しいか玄人が正しいかは点試の価値があることも多いかと思われる。A分野での業績評価から兎に角試みさせる(場合によっては試みることを勧める)といった形の助成の種目をもうけることは如何であろうか。
3. 現行の審査の様式では、研究助成の応募書類を読んでいる審査員の心的状態は山田財団の場合も国の研究助成の場合もそう違ったものではないように思われる。審査員に受身一方でない役割を与えるというのもτを大きくする一方法かも知れない。或いは他に伯楽的な役割の委員をつくるのもよいかも知れない。この委員は、前年度の境界領域での若手(例えば35才以下)の研究発表をみて、その中で将来性の大きいものを推薦し、これを委員会等が妥当と考え、本人が希望すれば助成するといったことは如何であろうか。

記念誌「山田科学振興財団の5年」(昭和57年(1982年)2月1日発刊)より